2025年9月24日、文部科学省の「デジタル教科書推進ワーキンググループ」において、これまでの議論を集約した「審議まとめ」が公表されました。ここでは、その主な内容を会員の皆様にご紹介します。
デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめについて
デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめ
PDFhttps://www.mext.go.jp/content/20250924-mxt_kyokasyo01-000045017_1.pdf
デジタル教科書推進ワーキンググループ審議まとめ(概要) PDFhttps://www.mext.go.jp/content/20250924-mxt_kyokasyo01-000045017_2.pdf
(リンク先は文部科学省)
1.審議の背景
近年、生成AIやICTの普及により、教育現場も急速な変化を迫られています。新型コロナウイルス感染症の流行を経て、オンライン学習やデジタル教材の活用が一気に拡大しました。文部科学省(以下、文科省)はこうした変化を踏まえ、次期学習指導要領の検討において「デジタル教科書を前提とした新たな学び」を視野に入れています。
令和7年2月14日に公表された「中間まとめ」の時点では制度の方向性が議論されてきましたが、今回の「審議まとめ」ではより具体的な制度設計の方針が示されました。
2.デジタル教科書の制度的位置付け
これまで、デジタル教科書は「紙の教科書と同一内容を持つ教材」として扱われ、検定や無償給与の対象外とされてきました。
今回の審議まとめでは、これを大きく改め、デジタル教科書も正式な「教科書」として制度に位置付ける方針が打ち出されました。これにより、検定・採択・無償給与の対象に含められ、紙と同様に扱われることになります。
さらに、紙かデジタルかという二者択一ではなく、両方を組み合わせた「ハイブリッド教科書」も認められることとなりました。例えば、中核部分は紙で提示し、詳細な説明や音声資料をデジタルで補うといった形式が想定されています。
3.検定・採択の方法
検定制度については、基本的にはこれまで通り「文字や図画による内容」を審査対象とすることが確認されました。
一方で、デジタル特有の機能(音声読み上げ、拡大・縮小、色変更、ルビ表示など)については、教育的効果を妨げない範囲で限定的に確認するにとどめるとされました。
また、採択に際しては、紙・デジタルいずれの場合も「実際に児童生徒に供給される形」で見本を提示することが求められます。採択事務の負担軽減のため、デジタル機能の一覧を明示するといった工夫も検討されています。
4.利用期間と供給のあり方
デジタル教科書の利用可能期間については、以下の方針が示されました。
義務教育段階:少なくとも3年以上
高校段階:4年以上
利用可能期間とは、例えば、小学校4年生が利用したデジタル教科書は、少なくとも3年以上6年生まで使えるようにするという意味です。さらに利用期間終了後も学習を継続できるよう、ダウンロードや印刷を可能にすることが望ましいとされています。
加えて、配信が一時的に停止した場合に備え、印刷機能の実装を検討するなど、供給の安定性確保にも言及されています。
5.教科書の分量と教材の役割
現状、教科書の内容が増加し、現場に「網羅的に教えなければならない」という負担感が広がっています。審議まとめでは、こうした状況を改め、「教科書を教える」から「教科書で教える」への転換を促しています。
具体的には、教科書の内容・分量を精選し、教科書は学びの基盤となる中核的な概念を伝えるものにする。そのうえで、教材を適切に組み合わせて使うことで、学習の充実を図る方針です。また、QRコード先のコンテンツについても、将来的には教科書の一部として位置付けることを検討するとされています。
6.当面の推進方策
制度改正が行われるまでの間は、これまでと同様に「教科書代替教材」としてのデジタル教科書の配布が継続されます。対象は小学校5年生から中学校3年生の英語・算数数学を中心に、今後は他教科への拡大も検討されています。
また、デジタル教科書を効果的に活用するため、以下の施策が重視されています。
・教員研修の充実:実践事例を共有し、デジタル教材の活用力を高める
・アカウント管理の簡素化:登録支援サービスや学習eポータルを活用
・健康影響への配慮:紙・デジタルを問わず、長時間の近距離注視は避けるべきとし、ガイドラインで周知
・ICT環境整備:GIGAスクール構想第2期として、端末更新やネットワーク強化を推進
まとめ
今回の「審議まとめ」は、デジタル教科書を正式に「教科書」として制度に組み込む大きな方向性を示したものです。
紙とデジタルを併用する柔軟な仕組み、検定・採択・供給のルール整備、教科書の分量精選など、教育現場の負担軽減と学びの質の向上を目指す内容となっています。
今後は、次期学習指導要領の検討と並行して、この方針が具体的な制度改正として形を取っていく見込みです。
日本ビジュアル著作権協会の対応
本件「審議まとめ」で示された方向性について、日本ビジュアル著作権協会(JVCA)としては、教育現場における適切な著作物利用を考える上で重要な動きであると認識しています。
当協会では、制度改正に向けた今後の議論の進展を注視するとともに、関係機関からの情報収集や協議の場における対応を検討してまいります。